プロフィール

1969年千葉県生まれ。93年青山学院大学経済学部卒業、同年ジャフコ入社。96年ジャック・ホールディングス入社。99年9月独立系ベンチャーキャピタル、アイシーピー設立、代表取締役就任。2000年5月価格比較サイト「価格.com」を運営するカカクコム取締役就任。2001年12月同社代表取締役CEO就任。2003年同社は東証マザーズに上場。2005年3月に東証一部に指定変え。

株式会社カカクコム

国内最大規模の価格比較サイト 価格.comを運営。パソコンや家電など、さまざまなジャンルの商品の比較サービスを提供。月間525万人もの利用者を誇り、サービスを提供するジャンルを増やしている。
売り手市場だった大学卒業時、就職活動で80社超の企業を訪問! 当時から起業を意識し、どんな会社を作るか模索
趣味は買物、暇さえあれば買物に行く。その点「趣味と仕事が一致している」といえる。


――会社員時代、どうやって起業のノウハウを身に付けたのか、お聞かせください。
穐田:「会社はビジネススクール」が持論ですが、前の会社の方にはちょっと失礼な話かもしれません(笑)。ただ勉強させてもらったのは事実です。会社を辞めるときに「お前を教育するのに、いくら投資したと思っているんだ!」と怒られたこともありました。
――ジャフコでどんな仕事を経験しましたか?
穐田:投資先の新規開拓です。飛び込み営業も多かったのですが、僕は大好きでしたね(笑)。たくさんの会社を見て、優秀な社長から経営を勉強させてもらえる、ありがたい仕事でした。
――スキル面も向上しましたか?
穐田:上場企業の経営者として、欠かせないスキルが身に付きました。成功企業・失敗企業の事例や経営者の資質、経理財務のスキル、証券市場の仕組みや企業価値・資本政策をマスターしました。もし僕が学生だったら、もう一度ジャフコに入社しますよ(笑)。
――その後ジャックに転職していますね。
穐田:起業する前に"実業"を経験したかったんです。事業部の責任者として、新規顧客の開拓やコールセンターのマネジメントを担当しました。
――マーケティングの現場は、ジャフコでは経験できないのでは?
穐田:できないですね。自分でやってみて初めて分かりましたよ、ものすごく大変だって!(笑) マネジメントも初めての経験でした。当時20〜30人の部下を持っていましたが、年が近かったこともあって苦労しました。
――それでも上手く部下を使っていかねばならない。
穐田:部下に「じゃあ、やってみろよ!」と、逆ギレされたこともありますよ(笑)。確かに、自分にできないことをやらせるのは結構大変です。だから実際に自分でやってみせるしかありません。とはいえ、部下と同じ仕事をしていては、上司である意味がありませんから、一緒に飲みに行くなど、話をする機会を設けてましたね。
――ジャックでは何を一番学びましたか?
穐田:在庫の管理や資金繰りなど、ジャフコで学べないことを全部学びました。一番プラスになったのは、商売は"入りと出"が大切だということです。例えば、情報は入れているだけでは無意味です。アウトプットを出して初めて価値があります。ヒトもカネもすべて同じ原理ですね。
――常に心がけていたことは?
穐田:会社に雇われている意識はありません。もらっている給与以上の成果を出して、その代わりにビジネスのエッセンスを吸収する、"ギブ・アンド・テイク"の関係を意識していました。 自分を鍛えるという意味では、どんな些細なことでも、自分なりの意思決定をするよう訓練していました。サラリーマンの利点は、リスクを会社が負担してくれることです。独立して意思決定を誤れば、すぐ会社はつぶれてしまいますからね。
――アイシーピー設立時に、35億円もの資金を集めたそうですが、やはり人脈が大切なのでしょうか?
穐田:僕も不思議に思うぐらい、資金は自然に集まりました(笑)。でも、僕は人脈が多いわけではありません。異業種交流会など、知らない人がたくさん集まる場所は苦手です。むしろ仕事を通じて出会った人を大切にする方が、得策ではないでしょうか? 仕事で着実に信頼を積み重ねてゆく、相手にとってメリットのある人間になれば、人脈は自然と広がるものです。
――情報もビジネスには大切な要素ですよね。カカクコムも海外のビジネスモデルを参考にしたとか。
穐田:とにかく情報は貪欲に集めていました。僕は「ビジネスモデル・オタク」なんです(笑)。そうなったのも、ジャフコ内部での新規開拓競争が激しかったからです。有望企業には既に担当がいますから、誰も当たっていない会社を探す必要があります。だから、誰も読まないようなマニアックな情報源をチェックしていました。
――カカクコムの人事戦略について教えてください。
穐田:原則は適材適所と権限委譲を徹底することです。権限委譲については、基本的にあまりルールを設けないようにしています。とにかくユーザー第一主義でやっていますから、ユーザーにとってプラスになることであれば、上司の指示を待たなくてもいいようにしています。
――人材採用に苦労しませんでしたか?
穐田:幸いにもほぼ順調かもしれません。社員がほとんど辞めないのです。当社の場合、各カテゴリを担当する社員は"ユーザー代表"でもあるんです。だから、お客様を大事にすることは、つまり社員を大切にすることに繋がります。また、サイトが延びている手ごたえを実感できるのも、やりがいを生んでいる要因の1つでしょう。自分のやったことが、何百万人もの人に喜んでもらえるわけですから。
――カカクコムを「ビジネススクール代わりに使ってもらっていい」とのことですが、どんな力が付きますか?
穐田:ユーザーの視点で物事を考える「マーケティング能力」や「マネジメント能力」は、向上するでしょうね。新規事業の立ち上げるときは、ひとつの会社を経営させるように任せます。ビジネスモデルの構築やビジネスプランの作成を自分でできるようになれば、起業する自信ができるでしょう。これだけ任せるのも僕自身、上司に邪魔されたくないと思っていたからです。だから自分で考えているんだったら、邪魔しませんし、失敗してもいいと思っています。最終的には本人がやる気がでる方向でやってもらってます。上司に言われた方法で、成功しても失敗しても本人の成長にはつながらないのです。
――何かインセンティブ制度はありますか?
穐田:昇給・昇格は早いと思いますが、お金の問題ではないと思うんです。厳密な給与の公平性を保つことは、極めて困難な作業です。そうではなくて、給与水準は平均以上に設定し、がんばった人にドンドン新しい仕事を任せます。仕事を通じて得られる"目に見えない資産"が大切ではないでしょうか。僕もサラリーマン時代、給与で文句を言ったことは一切ありません。
――給与より仕事の内容なんですね。
穐田:僕はお金を払ってでも、ジャフコに行きたいと思いました。名刺を持たせてもらって、経営者から勉強させてもらえるわけですから。ジャックでは、部下を持たせてもらって、会社の予算を使わせてもらった。今でも2社には、とても感謝しています。だから「会社はビジネススクール」なんです。1カ月終わって給与明細を見て考える人と、1カ月の間に「自分が一ヶ月の間に何をしたのか考える人」では、3年もすれば大きな差が付くでしょうね。
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